事業承継士の村上智史です。
現在、国税庁の有識者会議において、
「取引相場のない株式(いわゆる非上場株式)」の
相続税・贈与税評価ルールの見直し議論が始まっています。
中小企業の経営者にとって、自社株評価は事業承継の成否を左右する、とても重要なテーマです。
特に、
- 「株価が高すぎて子どもに承継できない」
- 「相続税負担が重すぎる」
- 「事業承継税制を使うべきか迷っている」
- 「たくさん不動産を持っているので影響が気になる」
という悩みを持つ経営者にとって、今回の見直しは要注目です。
もっとも、現時点では「有識者会議での検討段階」のため、具体的な改正内容については不明です。
ただ、これまで指摘されてきた論点を整理することで、
「将来どのような会社が影響を受ける可能性があるのか」
をある程度想定することは可能です。
今回は、現在議論されている論点について、
事業承継の実務という視点から整理してみたいと思います。
<目 次>
- なぜ自社株評価方式の見直しが始まったのか?
- 見直しのポイント【1】 類似業種比準方式
- 見直しのポイント【2】「時価」と「相続税評価額」の乖離
- 見直しのポイント【3】事業承継税制との整合性
- 見直しのポイント【4】「種類株式」の活用による節税対策
- 今までの株価対策が通用しなくなる可能性も・・
- 事業承継のために経営者がやるべきこと
- まとめ

なぜ自社株評価方式の見直しが始まったのか?
現在の非上場株式の評価に際しては、
- 類似業種比準方式
- 純資産価額方式
企業の規模等に応じて上記いずれかを選択する、
もしくはこれら2つを組み合わせて算定するルールが定められてます。
その結果、
大会社になるほど「類似業種比準方式」
小規模な会社ほど「純資産価額方式」
の割合が高くなっています。
しかし国税庁は、
「類似業種比準価額方式が、純資産価額方式に比べて極端に評価額が低い」
ことを問題視しています。
実際、有識者会議の資料によると、
類似業種比準価額の中央値は純資産価額の約27%しかない
との分析結果が紹介されています。
つまり、
「本来100の価値がある会社が、25〜30程度で評価されているケースが多い」
ということです。
そのため、
「本来の企業価値と相続税評価額が大きく乖離するケースが生じている」
という問題意識が高まっているのです。
一方、国としても、
- 中小企業の円滑な事業承継
- 地域経済の維持・発展
- 人材雇用の維持・増加
を重視しており、単純に「増税方向」だけを目指しているわけではありません。
つまり今回の議論は、
「公平な課税」と「事業承継の促進」の2つのバランスをどう取るのか
という問題でもあるのです。
見直しのポイント【1】 類似業種比準方式
「類似業種比準方式」は、上場会社の株価を参考にしつつ、
非上場株式を評価する方式ですが、現在の経済実態とのズレが指摘されています。
1) 業種区分の問題
例えば近年では、
- ITサービス
- SaaS
- プラットフォーム事業
- AI関連企業
- デジタルコンテンツ事業
など、従来型の業種分類では整理しにくい企業が増えています。
しかし現在の評価制度では、必ずしも実態に即した業種区分になっていないケースがあります。
その結果、
「類似業種の選定自体に無理がある」
という問題が生じているのです。
2) 3要素(配当・利益・純資産)のウェイトの見直し
類似業種比準方式では、
- 配当
- 利益
- 純資産
の3つの要素を上場企業の数値と比準しつつ、株価を算定します。
しかし現在では、
- 配当を出さず、内部留保を重視する企業
- 利益より成長投資を優先する企業
- 無形資産中心の企業
も増えています。
そのため、
「現在のウェイト配分が企業価値を適切に反映しているか」
という批判が高まっています。
もし、これらのウェイトが変更されれば、
同じ会社でも株価が大きく変わる可能性があります。
見直しのポイント【2】「時価」と「相続税評価額」の乖離
2つ目の論点は、
「市場価値に比べて相続税評価額が低くなり過ぎるケースがある」
という批判です。
特に注目されているのが、不動産を多く保有する企業です。
現在の評価制度では、
- 賃貸不動産
- 土地
- 含み益資産
を大量に保有していても、
一定条件を満たせばその評価額を低く抑えることができます。
そのため、
「実際は非常に資産価値が高いのに、相続税評価額だけ低い」
という「ねじれ現象」が生じることがあります。
借入れを活用して高額不動産を取得し、相続税評価額を大きく引き下げるスキームについて、税務当局との間で争いになった事例もあります。
こうした流れは、近年の「タワマン節税策」の見直しとも共通する問題意識といえるでしょう。
つまり、課税当局としては「実態価値とかけ離れた低評価」を
一定程度是正させたいという意向を持っていると考えるべきです。
そのため今後は、
- 純資産価額方式
- 不動産評価
- 含み益の反映方法
などについてメスが入れられる可能性が十分あります。
見直しのポイント【3】事業承継税制との整合性
3つ目は、いわゆる「事業承継税制」との整合性です。
現在、多くの中小企業で、
「相続税・贈与税の納税猶予制度」の活用が検討されています。
しかし、評価方式が変われば、
- 猶予対象額
- 将来の取消リスク
- 承継後の税負担
などにも影響が及ぶ可能性があります。
もし評価方式変更によって株価が大きく上昇した場合、
- 後継者の心理的負担
- 制度利用のハードル
- 将来的な税負担リスク
が高まる可能性があります。
そのため、有識者会議では、
「中小企業の円滑な事業承継を阻害しない配慮」
も重要な論点になると考えられます。
見直しのポイント【4】「種類株式」の活用による節税対策
有識者会議の資料によると、
所有と経営の分離を図る 「種類株式の活用スキーム」についても
今回の見直しの対象として取り上げられています。
<参考記事>
baton-consulting.hatenablog.com
ただし、種類株式を活用して後継者へ議決権を集中させること自体は、
特に問題とされているわけではありません。
上記の不動産のように、「経営承継の合理性」を超えて、
「相続税評価を意図的に極端に引き下げる」ために
種類株を利用しているケースを国税庁は問題視しています。
今までの株価対策が通用しなくなる可能性も・・
今回の議論の本質は、
「自社株の評価に対する考え方の見直し」にあります。
これまで有効とされてきた、
- 持株会社スキーム
- 不動産活用
- 配当政策
- 純資産圧縮策
なども、評価ロジックが変われば効果が変わる可能性があります。
つまり、
「今の対策が、将来も有効とは限らない」
ということです。
事業承継のために経営者がやるべきこと
現時点で最も重要なのは、
「慌てて対策を変えること」ではありません。
まず必要なのは、
「自社株が、どのようなロジックで評価されているのか」
を正確に把握することです。
具体的には、
- 類似業種比準方式なのか
- 純資産価額方式なのか
- 不動産含み益がどの程度あるのか
- 株価上昇要因は何か
- 事業承継税制との関係はどうか
などを整理しておく必要があります。
そのうえで、
「もし評価ルールが変わった場合、どの程度影響を受けるのか」
をシミュレーションしておくことが重要です。
まとめ
今回の非上場株式評価見直し議論は、中小企業経営者にとって、
・事業承継
・株価の引下げ対策
・株式の保有体制
そのものに関わる可能性のあるテーマです。
もちろん、現時点ではまだ議論段階であり、具体的な改正内容は未定です。
しかし、株価対策を含めて事業承継計画の策定と実行には、
数年単位で準備が必要になるのが一般的です。
そのため、「制度が変わってから考える」のではなく、
「変わる前提で現状を把握しておく」ことが重要です。
事業承継は、単なる税務上の課題ではなく、
- 会社経営の継続と将来ビジョンの検討
- 経営者のハッピーリタイア
- 将来の遺産分割
- 後継者の育成と経営の継承
- 株主構成の見直しとガバナンス体制の検討
まで含めた総合的な問題です。
今後の制度改正の動向も踏まえながら、
早めに準備を進めていくことが重要だと感じています。
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